「持ち家か賃貸か」。この問いを、私は一度も真剣に考えたことがありません。
いや、正確に言う。考えなかったのではなく、その問いの前で立ち止まらなかったんです。
2014年、私は神奈川県内の海沿いにある中古マンションを2,900万円で買いました。7年住んで、2021年に5,000万円で売った。その売却益は、次に買ったログハウスの頭金の一部に充て、残りは再投資に回しました。翌2022年には、築古のアパートを一棟。いまはその家賃収入が、私の収入の柱のひとつになっています。
こう書くと、うまくいった人の話に見えるかもしれません。でも、この記事で書きたいのはそこではないんです。
書きたいのは、多くの人が「持ち家か賃貸か」で悩んでいる時間に、私はまったく別のことを見ていた、ということ。そして振り返ると、その見方のほうが結果に効いていた、ということです。
私は「持ち家か賃貸か」で悩まなかった
家を買おうと決めたとき、私は賃貸と比較していない。買う前提で動いていました。
では何を見ていたのか。自分が住みたい家かどうか。その場所が気に入るかどうか。仕様が気に入るかどうか。並べてみると、どれも同じことを言っている。結局、自分が好きかどうかでした。
比較はその先の話です。好きだと思える家がいくつか見つかって、はじめて比べる段階になる。私の場合、この順番が逆になったことはありませんでした。
実際、見に行った先のひとつは、家そのものは良かったんです。木の質感も、間取りの考え方も、私の好みに合っていた。ただ、その場所に流れている雰囲気が、自分には合わないと感じました。それでやめています。
これは評価ではありません。私に合わなかった、というだけの話です。同じ場所を見て、心地よいと感じる人はたくさんいる。
そして、いま正直に書いておくと、これは「答えの出ない問いを避けていただけ」かもしれません。持ち家か賃貸かという問いには、誰にでも当てはまる答えがない。私は無意識にそれを察して、答えの出る問いのほうに移っていた。そういう見方もできると思っています。
2,900万円で買った家が、7年後に5,000万円で売れた
2014年に買ったのは、神奈川県内の海沿いにある中古マンションでした。
当時、海に近い住宅の資産価値は低く見られていました。2011年の震災から3年しか経っておらず、沿岸部を避ける空気が残っていた。私はそこを気にしませんでした。海の近くに住みたかった。それだけの理由です。
7年住んで、2021年に売りました。5,000万円。買値との差は2,100万円です。
ここは正直に書きます。読みが当たったわけではありません。相場が動いただけ。あのタイミングで買って、あのタイミングで売った。それは運の要素が大きかったと思っています。
ただ、ひとつだけ後から言えることがあります。私は結果的に、売れる家を買っていました。駅からの距離、広さ、管理の状態。次に買う人が欲しがる条件を、意識しないまま満たしていたんです。
そしてここが、この記事のいちばん大事なところです。持ち家か賃貸かという議論では、この「出口」の話がほとんど出てきません。
持ち家と賃貸は、そもそも何が違う?
結論から言うと、違いは毎月の支払額ではありません。次の3つです。
- 費用の出方
- 自由度
- 出口があるかどうか
| 項目 | 持ち家 | 賃貸 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 頭金・諸費用・登記費用などがまとまって出る | 敷金・礼金・仲介手数料が中心 |
| 毎月の支払い | ローン返済(完済後はゼロになる) | 家賃(住み続けるかぎり続く) |
| 維持費 | 固定資産税・修繕費・管理費/修繕積立金がかかる | 原則かからない |
| 住まいの自由度 | リフォーム・設備変更が自由にできる | 原状回復の範囲に縛られる |
| 住み替えの手軽さ | 売却または賃貸に出す手続きが必要 | 解約して引っ越せば終わる |
| 出口 | 資産として残る。ただし売れる保証はない | 何も残らない。ただし負債も残らない |
この表を見て、どちらが得だと感じたでしょうか。
おそらく、答えは人によって割れたはず。そしてそれは、この問いの性質をそのまま表している。
💡 総務省統計局の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、日本の持ち家住宅率は60.9%です。前回の2018年調査では61.2%で、0.3ポイントの低下にとどまっています。さらに1993年からの30年間、この比率はおよそ60%前後で横ばいのまま推移しています。
30年です。この間、地価も金利も家族のかたちも大きく変わりました。それでも比率はほとんど動いていない。
もし「持ち家が正解」あるいは「賃貸が正解」という一般解があるなら、30年もあれば比率は片方に寄っていくはず。寄っていないということは、答えが人によって違うということだと私は受け取っています。
これは、「和食と洋食、どちらが体にいいか」と聞くのに似ています。栄養の話としては議論できますが、答えは結局その人が何を食べたいか、どこに住んでいるか、何をアレルギーで避けるかで変わります。住まいも同じで、条件を並べただけでは決まらない。
持ち家か賃貸かは、どう計算すればいい?
結論から言うと、総額の比較には答えが出ません。前提をひとつ変えるだけで、結論がひっくり返る。
ネット上には「35年間の総支払額を比較」という試算がたくさんある。あれは計算としては正しいのですが、次のような数字を最初に置いてから計算しています。
- 何年住み続けるか
- ローン金利が何%で推移するか
- 家賃が何%上がるか
- 売却時にいくらで売れるか
- 修繕にいくらかかるか
このうちひとつでも動かすと、結論は入れ替わります。つまりあの試算は、答えを出しているのではなく、置いた前提を確認しているだけなんです。
では何を計算すればいいのか。私は次の3つに絞ることをおすすめします。
| 計算すること | 見るポイント |
|---|---|
| ① 何年住むつもりか | 居住期間が短いほど、購入時の諸費用が重くのしかかります。転勤や転職の可能性が高い時期は、賃貸のほうが動きやすいでしょう |
| ② 出るときに何が残るか | 売れる物件か、いくらで売れそうか。周辺の中古成約事例を見れば、おおよその見当はつきます |
| ③ 払えなくなったとき、どう逃げられるか | 収入が下がったときの選択肢を先に確認しておきましょう。売る・貸す・借り換える、それぞれ何が必要かを知っておくと安心です |
そして、計算に入れ忘れやすい費用があります。ここを落とすと、比較そのものが成り立たない。
| 見落としやすい費用 | 持ち家 | 賃貸 |
|---|---|---|
| 税金 | 固定資産税・都市計画税が毎年かかる | かからない |
| 修繕 | 給湯器・外壁・屋根などを自分で負担する | 原則オーナー負担 |
| 管理 | マンションなら管理費・修繕積立金が毎月かかる | 家賃に含まれる |
| 更新 | なし | 更新料が発生する契約が多い |
| 売買時 | 仲介手数料・登記費用・印紙税など | なし |
※国土交通省の「令和6年度 住宅市場動向調査」によると、分譲集合住宅を取得した世帯の購入資金は平均4,679万円、中央値4,500万円でした。これは令和5年度に住み替えを行った世帯を対象にした調査で、地域や物件によって幅があります。あくまで相場感の目安として見てください。
私が家を選んだ理由は、条件表に載らないものでした
ここからは私の話です。
2021年に買ったのは、ログハウス。5,480万円です。
選んだ理由を並べてみます。においがいいこと。木が湿気を吸って吐くこと。そして、遊べる家だということ。
書き出してみて自分でも驚いたのですが、資産価値の話がひとつも出てきません。売るときいくらになるか、私はほとんど考えていませんでした。
買う前にあった不安は、メンテナンスです。木の家は手がかかります。塗装も定期的に必要になる。それは分かったうえで買いました。
なぜなら、手がかかることが私にとって減点ではなかったからです。むしろ、手をかけられる家のほうが面白いと思っていました。
こうやって書いていくと、私の選び方の癖が見えてきます。条件を表にして点数をつける、という決め方を私はしていない。やってみたいかどうかで決めています。
会社を辞めたときも同じでした。年収がいくら下がるか、退職金がいくらになるか。そういう計算はもちろんしましたが、最後に決め手になったのは、そこではなかった。
ただし、これは万人におすすめできる決め方ではありません。私にはたまたま、売れる家を買っていたという結果が残りましたが、そうならない可能性は当然ありました。条件を並べて冷静に決める人のほうが、失敗は少ないはず。
買ってよかったか。もう一度選べるなら、何を変えるか
結論から言えば、買ってよかったと思っています。
私の考えでは、こだわりのある家に住みたいなら、買うという選択はあっていい。賃貸では、においも、素材も、手の入れ方も選べない。そこに価値を感じるなら、買う理由になります。
ここで、お金の動かし方も書いておきます。マンションの売却益を、次の家に全額入れることはしませんでした。必要な頭金の一部に充てて、残りは再投資に回しています。
手元の現金をすべてつぎ込めば、借入は減ります。毎月の返済も軽くなる。ただ、そうすると資金が家に固定されて、次に動かせるものがなくなります。私は借入をゼロに近づけることよりも、動かせるお金を手元に残すほうを選びました。借入は、投資効率を考えて意図的に使っています。
財布の中身を全部出して買い物をするか、いくらか残しておくか。その違いに近いと思います。全部出せば借りずに済みますが、次に何か出てきたときに動けない。
もちろん、借入が増えれば、うまくいかなかったときの振れ幅も大きくなる。ここは人によって答えが変わるところです。
その考え方で、2022年に築古のアパートを一棟買いました。売却益の残りを、収入を生む形に置き換えたということ。
ただ、築年数が古く、市街化調整区域にある物件だったため、金利の安い金融機関は貸してくれませんでした。最終的に借りられたのは、金利3.75%、期間30年という条件。
そのうえで、もう一度選べるなら変えたいことがひとつだけあります。金利のシミュレーションです。
当時の私は、金利が上がっていく前提を持っていませんでした。低金利がずっと続くものとして計算していたんです。
これは、晴れの予報だけを見て、傘を持たずに30年の旅に出るようなものでした。行き先の天気を1日分しか調べていなかった、と言い換えてもいい。
借入を効率で使っている以上、金利が上がれば、その効率そのものが変わります。いまは金利が動き始めています。そこで考えているのが、減価償却が終わるタイミングでの繰り上げ返済です。減価償却が終われば経費として計上できる金額が減り、税負担の出方が変わる。その節目に合わせて借入を圧縮するのが、いまの私にとって現実的な手だと考えています。
これは後悔ではありません。想定が甘かった、というだけの話です。ただ、これから借りる人には効く話だと思うので、書いておきます。
借りる前に、ここだけは動かして計算する
- 金利が1%上がったとき、毎月の返済額はいくらになるか
- 金利が2%上がったとき、家計は回るか
- 変動と固定、どちらを選ぶか。その理由を自分の言葉で説明できるか
金融機関のサイトには返済シミュレーターがあります。数字を入れ替えるだけなので、5分あれば試せる。上振れしたケースを一度でも見ておくと、選ぶものが変わるかもしれません。
まとめ:今日、決められること
「持ち家か賃貸か」を、今日決める必要はありません。決めるべきなのは順番です。
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | これから何年、いまの場所に住むつもりかを書き出す |
| 2 | 買う場合の「出口」を調べる。似た条件の中古物件が、いくらで売れているかを見る |
| 3 | 金利を1〜2%上げた返済シミュレーションを回す |
| 4 | そのうえで、自分がどんな暮らしをしたいかを言葉にする |
1から3は数字の作業なので、誰でも同じやり方でできる。4だけは、他人の答えが使えません。
私の場合、4が先にあって、1から3をあまり見ないまま買いました。結果的にうまくいきましたが、順番としてはおすすめしません。1から3を先に済ませたうえで、4で決める。それがいちばん納得のいく買い方だと思っています。
💡 住まいの決断は、仕事や働き方の決断と地続きです。どこに住むかは、どこで働けるかに縛られます。関連する記事として、昇進が決まった年に、会社を辞めた話と、辞める年にふるさと納税をどう調整したかも書いています。お金と住まいの話は、だいたいつながっています。

